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​記事

揺れる蝦夷・・・。(3)


そして蝦夷の者たちは・・・。


その夜、多賀城を間近に仰ぐ館(たち)に蝦夷の者たちが顔を揃えていた。

・・・

「陸奥守さまはああもうされたが・・・まこと蝦夷に冠位が下されようか」

・・・

「さよう。どうも信用がならぬ」

・・・

「蝦夷というよりも、陸奥守さまに貢ぎ物の多い者にと言い換えるべきでござろうよ」

・・・

「蝦夷が一段と結束せんばならぬときに宮足が搔き乱す。今の陸奥守さまは十年以上も多賀城に暮らされたお人。じゃが、都に戻られて別のお人が参ればどうなるか。黄金はますます重宝される。新しき陸奥守さまは出世の糸口にと黄金を求めるに相違ない。他のものならともかく黄金は小田に限られる。宮足ばかりが大事にあつかわれような」

・・・

「いやな世と中となりそうだ」

・・・

「吉風どのが、つい先日我が館に足を運んでくだされた」

・・・

「黄金のことでひどく案じておられた。陸奥に黄金が産出すると知れれば朝廷が欲を出す。我らもこれまでのようにのんびりと構えてはおられまい。朝廷は必ず兵と民の増強を推し進めて陸奥の支配を強化いたすであろう。蝦夷の首を都の役人にすげ替えて我らから国を取り上げる。それも遠い話ではあるまい」


                (高橋克彦『風の陣』一 立志編 講談社文庫、2018年、 pp27-29)


蝦夷の者たち

・出羽の仙北一帯を支配している蝦夷の長老 吉弥候部に連なる大道(おおみち)

・伊治(これはる)*現在の宮城県栗原郡一帯 の蝦夷を傘下に従えている伊治豊成(とよしげ)。古い

 歴史を誇る名門である。

・胆沢一帯を治めている長である阿倍守忠(もりただ)

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