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​記事

若き蝦夷たち


若き蝦夷たち 

時代は移る。彼らはみちのく蝦夷の正義のために・・・。歴史の舞台に登場する。


おなじ館の別の部屋ではひさしぶりに顔を合わせた子供たちがはしゃいでいた。

・・・・・

「嶋足(しまたり)は都に参るのか」

羨ましいそうに一人が車座の中心にいる嶋足を見詰めた。ここでは嶋足が最年長だった。大人の世界での身分の違いはない。子供の中では年長と器量が優先される。

「都に行ってなにをする?」

目を輝かせながら最年少の子供が質した。伊治豊成の孫の鮮麻呂(あざまろ)であった。わずか五歳ながら口調はしっかりしている。

・・・・・

鮮麻呂はやがて蝦夷の纏めをする男になるはずだ。それを嶋足はわきまえていた。

・・・・・

嶋足は鮮麻呂の屈託のない笑顔に気後れさえ感じた。迷いが微塵もない。後がうるさいゆえ喧嘩をしない。と皆は言うが、そうではないのを嶋足は知っていた。鮮麻呂の喧嘩の理由はいつもはっきりしている。理不尽なものに対しての抗いだった。だから血だらけになっても屈しない。屈すれば理不尽さを認めることとなる。天性の資質なのだ。今は十歳の者でさえ鮮麻呂に従っている。おなじ年頃であったなら自分とて鮮麻呂を棟梁と立てていたかも知れなかった。


                (高橋克彦『風の陣』一 立志編 講談社文庫、2018年、 pp35-39)


嶋足 牡鹿(おしか)の丸子宮足(みやたり)の倅(せがれ)

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